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J-Mのワイン

 2008-09-14
ずいぶん前の話になるが、料理人でソムリエのEwに誘われて、7月の最後の週末、ジュラ地方のワイン製造者J-Mを訪ねて行った。

Ewの働く店でJ-Mのワインを飲んだことがあるけれど、私にとっては結構なお値段なので、そうしょっちゅうは飲めない。それに製造本数も少ないらしく、必ずしもお店に在庫があるわけではない。だから、私は2、3回しかJ-Mのワインを飲んだことがなかった。それでも、J-Mのワインは一度飲んだら忘れられない印象強いワインで、味や香りの記憶力のない私でも、最初に飲んだ彼のワインのことをよく覚えている。EはJ-Mのワインが大好きで、お気に入りの難しいワインを客に出し渋るEwが、自分からEにJ-Mのワインを出してくれる。7月初旬のある日、閉店後まで長居していたEと私に、Ewがワインを振舞ってくれ、月末はどうしているかと聞いてきた。何も予定はないと答えると、J-Mのところへ運びたい荷物があるから車を出してくれないか、と言う。Eのランド・ローバーは運搬にうってつけだし、J-Mのところに泊めてもらえるというし、何よりJ-MのワインのファンであるEは喜んで引き受け、私も一緒に連れて行ってもらうことになった。

金曜日の夕方、Ewとその彼女のMと共に、Eの運転でパリを出てジュラへ向かった。7月の週末だから、パリからヴァカンスに出る車が多いに違いないとふみ、直接南下する高速道路を避けて迂回した。それで時間が多少かかり、J-Mのところに着いたときには夜中の11時だったが、J-Mとその友人たちは、ロウソクを灯したテラスでアペリティフを飲みながら夕食を待っていてくれた。出迎えてくれたJ-Mは、背が高くて腕も手も大きな人で、「なるほど、農業に向いた体格だ」と思った。Ewとは会ったときから意気投合した仲のようで、二人でゲラゲラと笑いながら再会を喜んでいた。そんなEwと一緒だったせいか、J-Mとは初めて会ったのにそんな気がしなかった。それよりも、J-Mの大らかさのおかげで、初対面の緊張を感じなかったのかもしれない。

しかし、かといってJ-Mは、ある一線を越えて誰でもを受け入れるタイプとは思えない。それは彼のワインを飲めばわかる。J-Mのワインには、彼の精神の自由さと信念、そしてそれを譲らない厳しさがある。ワインの味の違いがまだよくわからない私でさえも、彼のワインの独自性を感じることができる。悪く言えば、多くの人には理解され難いワインだろう。

ジュラ地方のワインといえば、黄ワイン(vin jaune)がある。名前の通り白ワインよりも色の濃いワインだが、まろやかさや甘みはなく、超辛口の特殊なワインだ。この黄ワインはサヴァニヤンという葡萄で造られるが、J-Mがこの品種で醸造した白ワインは、ほとんど黄ワインの味わいだ。彼の白ワインには数種類のキュヴェがあるが、どれも一貫してテロワールを体現しているのを感じさせる。

J-Mの家では、彼のワインをずいぶんご馳走になった。1本あたりの値段を考えると、相当な額になると思うが、J-MとEwは次々と手持ちのワインを出してきては惜しげもなく栓を開けた。それどころか、彼らにとって、自分のカーヴの品揃えは自慢でもあるような感じだ。あるとき、Ewがラベルを隠して持ってきたワインをブラインド・テイスティングしたところ、J-Mは「すごくいいワインだ!でも、誰のか全然わからないなあ」と首をひねった。しばらくして、にやにやしていたEwが、それはJ-Mのワイン(4年ほど前のヴィンテージだったが)だと明かしたとき、J-Mは困惑しつつも満足して大笑いしていた。自分の製作したものが自身でそれとわからないこともあるだろうが、それを知らずと賞賛できるというのは素晴らしく幸せなことだと思う。

ワインとチーズとパン(それも、どれも上質)に終始した滞在だったが、その間の会話の中に、J-Mのワイン作りに対する姿勢が垣間見られた。農業を経済面でコントロールするための政治がどういう影響を与えているか、ある程度は知っていはいても、実際に農業に携わる人の言葉を直に聞くと、本当に大変なことだと感じる。Natureは「自然」であるが、それは木や水を表わす環境面の意味だけでなく、同時に「本質」という意味がある。Natureをリスペクトしてワインを作る、それはとてもシンプルなことのように聞こえるが、経済市場や政治が絡んだワイン業界の中で、実際には非常に難しい。

Eと私がパリに帰る日、J-MとEwとMは早朝5時に起きて葡萄畑に行ったが、予定よりずっと早く引き上げてきた。どうしたのかと聞いてみると、前夜の嵐で降った雹のせいで、予定していた仕事ができなかったらしい。そして、葡萄が被害を受けていて、収穫が激減する見込みだと言う。J-Mはさすがに疲れを感じたらしく自室に引っ込み、その後、私たちが出発するときには眠っているようで姿を見せなかった。お礼の挨拶もせずにお別れするのは胸が痛んだが、邪魔をしたくなかったので、EwとMによろしく伝えてくれるように頼んで、J-Mの家を後にした。

9月に入って、パリの空は秋晴れで気持ちが良い。ジュラ地方も太陽に恵まれているといいなと思う。あれからJ-Mの近況を聞いていないが、彼の葡萄がその後めげずに元気に育ってくれていることを祈る。

フランスはそろそろワイン見本市の季節で、雑誌ではワイン特集が組まれ、スーパーマーケットも広告をしている。それらを横目で見ながら、自分が本当に美味しいと感じるワインはどんなものだろうかと考える。

J-Mのワインのような素晴らしいワインが、これから先、世の中から消えてしまいませんように。
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コメント
このコメントは管理人のみ閲覧できます
【2008/09/16 02:36】 | # | [edit]
>上のコメントの方
ありがとうございます。届いたらご連絡します。
【2008/09/19 18:47】 | shiba #h/1ZVhMA | [edit]












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