2005年の暴動で捕まった子供たち

日本の新聞のWEBサイトを読んでいたら、昨年の暴動のことが某新聞で「イスラム系移民2、3世による暴動」と書かれていました。目が点になりました。で、遠い異国の日本(っつっても記者はパリに住んでるはずなんだけどなぁ)ならまだしも、ル・モンドで、ある記事のリアクションに「emeutes ethniques(民族の暴動)」と書かれていて更にショックを受けました。あれだけ議論がなされて一年経ってもこういうことを言う人がいるんだなあ〜。まあ、ル・モンドのリアクションの方は、どんな人が書いたかわからないし、文責ないも同然だし、単なる煽りかもしれないけど。

フランスには、民族や人種を記述した情報に関する法律(L'article 226-19 du Code penal)があり、当事者の承諾なしに公開することは禁止されています(私の理解が正しければ…)。こうした情報にはとにかく敏感で、例えば、今年の2月、総合情報局が未成年軽犯罪者の出身の統計を出しているとル・モンドが報じ、その後、SOSラシズムが訴訟を起こしています。(これについてはこちらのフランス語記事を参照)
なので、「イスラム系移民2、3世による暴動」「民族の暴動」という根拠がどこから出てきたのか疑問です。

ところで、最近のル・モンドに、昨年の暴動で捕まった子供たちに関するレポートについての記事がありました。
これによると、社会学研究者のロラン・ミュッシェリと政治学者(博士号準備者)のオロール・ドゥロンが、2005年秋の暴動に加わった若者たちに関する分析を行い、新しいひとつの見解を提示しているとのこと。
二人の研究者は、2005年10月31日から同年11月11日の間に、サン・ドゥニ県ボビニー裁判所で起訴された86名の未成年者を対象に調査。但し、2006年6月に調査を終えた段階で19件のみが裁判を終了。また、詳細にわたって参照することができたのは25名に関する16の資料。
その中で、84%が外国的な名前、55.5%が北アフリカ系の名前だったとのこと。報告書には「この確認された事実は〔…〕暴動の間とその後、公の議論で発せられた、いくぶん外国人嫌いの考え、特に、ある人々が結び付けたがっていたブラック・アフリカ系家族の一夫多妻制と暴動との関連性に、強く異議を唱えるものである」と書かれています。結論として、暴動に加わった若者は、「ほとんどが16歳から18歳で、多数が『移民出身』、主にマグレブ系である。彼らは、土台はしっかりしているが社会経済面で不安定にさせられた家族の出で、社会的な面で脆弱である。また、彼らのほとんどは、軽犯罪の前歴のない者だった」と述べています。
再犯について、実際に軽犯罪の前歴があったと裁判所で確認されたのは34%であるとレポートは報告していますが、以前の処分が保護観察などであり、深刻な犯罪ではなかったようです。
更に、今回の判決は、16件のうち8件が証拠不十分で不起訴となりました。5人が釈放、3人は有罪となったものの自らの行為を認め「一時的処置」を実行したので刑罰免除、2人が有罪判決で懲役刑を受けました。
起訴の数と有罪判決が不均衡に感じられるのは、検挙時の状況がポイントである、と研究者はみています。曰く「警察はしばしば、他の者より走るのが遅い者を捕まえた、というのが総体的印象である。」そして特に、検挙は薄闇の中、大勢の叫び声の喧騒と、非常に張り詰めた雰囲気の中で起こったわけで、「警官たちの報告書が不明瞭で、時には矛盾していた」とのこと。その上、尋問の際に、警官による暴力行為の疑惑が持ち上がることもあったそうです。
こうした状況を鑑みると、警察側にもかなり問題があったと思われます。少し前にサルコジ内相が、laxisme(放緩主義、甘やかし)の裁判所がちゃんと仕事をしていないから再犯が多いのだ、と、自分の管轄の警察ではなく司法を責める発言をして物議を醸しましたが、この報告書は「裁判官は自らの仕事を遂行している」「いかなるlaxismeも見当たらない」と述べています。

さて、それ以外にも、サルコジ内相の見解と全く反対のことがこの報告書に現れています。というのも、サルコジ内相は当初、暴動に加担した者たちは警察に顔が知られた累犯者だ、と見なしていたのです。つまり、彼はracaille(ごろつき)発言をしたあと、郊外の治安を悪化させている累犯者のことをそう呼んだのだと弁明し、連夜の放火を行っている者たちこそがその累犯者であると言いたかったのでしょう。しかし、この報告書によると、前歴もない子供たちが多かったということになります。

ところで、この報告書が左派的視点から作成されているな、というのは感じます。ル・モンド読者のリアクションを読んでいて知ったのですが、ミュッシェリ氏は有名な左寄り社会学者なのですね。
まあ、だからどうこうということは、私はないんですが…。ただ、これを読んで毛を逆撫でられ、「科学的でない」とか「著者が左寄りだから偏ってる」とか色々言う人はいるだろうなー、と。で、正直に言うと、それを多少理解できなくもない気持ち。

それにしても、足の遅い子が捕まったというのは…悪いと思いつつちょっと笑ってしまいました。本当に悪い奴は逃げ足が速かったりするんだろうなー。(いや、逃げ足が速いから悪い奴、とか、悪い奴はみんな逃げ足が速い、と言うわけじゃないですけど。)

非常に長くなりましたが…この話、続きますです。

昨年の暴動と今年のバス放火 その2

マスメディアは「暴動一周年」祭り開催中。まったく何を期待してるんだろう?と不可解です。「警察によると状況は相対的に落ち着いている」とよく書かれているのですが、何に対して「相対的」なんだよ?と。たしかに、ラマダンの終わりだとかトゥサン(万聖節)のヴァカンスだとか二人の若者の命日だとか、昨年と重なる要素や関連する要素はこの時期にあるにはありますが…。

と言いつつも、メディアから情報収集するしかないわけですが。そんな中、「メディアが煽りに加担している」という批判を受けたせいでもないんでしょうが、ル・モンドにはいくつか固有の視点の記事もあります。
例えば、郊外に住むある若者が「今夜、警察と衝突する理由はない」と言っている記事。
19歳の彼は、昨年の暴動に加わったが、二人の若者の死から一年経った日だからといって、その夜に警察と衝突する理由はない、と感じています。

また、先日、やはりバスが放火されたパリ郊外ナンテール市の市民は、驚きと不可解さを示しているそうです。
たしかにナンテールは経済的に貧しく困難を抱えている家族が多い地区ですが、昨年の暴動現象の中、若者たちは大人しかったところ。バスの放火は、他からやってきたグループによるものではないか、または政治的煽動を狙った犯行なのではないか…など住民は考えているようです。また、この取材中、バス放火事件を擁護する言葉などひとつも聞かれず、地元の若者たちからも非難の声があがっていたとのこと。

現在相次いでいるバス放火事件の犯人たちの動機や目的、彼らのプロフィールなどがまだわからない状態ですが、これらの記事を読んでも、昨年の社会現象的暴動とは本質が異なると感じている人は少なくないと思われます。

で、日本の報道では「郊外の暴動が再燃?」みたいなことが書かれているそうなので、私はこの点にちょっとこだわっています。

しかし、残念なことに、金曜から土曜にかけての夜、フランス全土で合計277台の車が放火されたそうです。(ちなみに、通常の週末には約100台近くが放火されているとのこと。2005年の暴動時期には一晩1400台が被害にあったというので、それよりはずっと少ない。)
深刻なことには、昨夜マルセイユで、若者のグループが乗客のいる運行中のバスにガソリンをまいて放火し逃走、26歳の女性が火傷を負い重体。
政府は事態を重くみて、公共機関における治安についての緊急会議を月曜に開く予定です。