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Caricature de Mohamet 2 ~ムハマンドの風刺画 その2~

 2006-02-06
デンマークの新聞に掲載されたムハマンドの風刺画がフランスで公表されたのは、2006年2月1日付けFrance-Soir(フランス・ソワール)紙面上。ユランズ・ポステンが掲載してから、実にまるまる4ヶ月が経過しています。
チュニジアとモロッコではフランス・ソワール紙発売禁止措置がとられました。そしてその日のうちに、フランス・ソワール経営者のレイモン・ラカー氏は出版の責任者であるジャック・ルフラン氏を免職。また、フランス・ムスリム評議会の代表、ダリル・ブバクール氏がこれを挑発だとして批判。しかし、ヨーロッパの他国紙は次々にムハマンドの風刺画を掲載することを決定。

私の印象としては、この日を契機に、デンマーク国旗を焼くような派手なデモや大使館放火事件までに発展したように思います。

しかし、なぜ4ヶ月も経過してからこれほどの騒ぎとなったのか。
フランス・ソワールが風刺画を掲載するまでに、デンマーク国内でのムスリムのデモ、その後ノルウェー雑誌の風刺画掲載を経て、エジプトやレバノンなど中東諸国へ飛び火、1月にはデンマーク製品の購買ボイコット運動がイスラム圏諸国で呼びかけられていたという背景があります。そして、フランス・ソワールをきっかけにドイツやオーストリアの新聞にも風刺画が掲載されたため、ヨーロッパ全土に問題が波及し、ムスリムの反応も相乗的に大きくなったように思われます。

では、フランス・ソワールはなぜわざわざ問題の風刺画を掲載したのか。
そこのところは、私が目を通した狭い範囲でははっきりしないのですが、一応「民主主義国の表現の自由をまもるため」の北欧への連帯のように見受けられます。
実際、フランスの出版界における反応として、各紙はこぞって「表現の自由」に言及しています。L'Humaniteはフランス・ソワールにおける免職を批判、なぜなら「表現の自由は民主主義の譲渡できない権利である」と述べています。また、多くの新聞が「世界の一部で傷つけられた感受性の前での敬意」(Republicain Lorrain)について語っているものの、それでもなお出版の自由を支持しており、例えばLe Mondeによれば「民主主義は、人権の足元を挫くかもしれないという条件つきでしか意見の取り締まり番を設立することができない」。Le Figaroも表現の自由についてふれていますが、ちょっと他と異なる調子で「法が許可していることを良心が禁じることがある」のだから「自己検閲が必要であると言えるかもしれない」「ひとは出版の自由を悪用することもできる」という論旨。

たしかに、自分の信仰する宗教が嘲弄されたと感じ、傷つけられた人々がいるということは問題だと思います。表現の自由を重視することは勿論同意しますが、自由は制限を知っていてこそ行使できるものだと思います。
今回の一件でムスリムが怒っているとしたら、風刺画はただ象徴的なものとして現れたのであって、風刺画そのものに対してではなくヨーロッパのある種の横柄さに対してではないかという気がします。
ヨーロッパにおける他文化・他宗教に対する無知・無理解が存在することは否定できないように思います。特に最近フランスでは植民地問題と絡んでそれが浮き彫りになっているように見えます。しかしそれは外国人である私の目にであって、ある一定のフランス人の目には相変わらず見えていないだろうと感じます。

さて、表現の自由と民主主義と宗教の関係について、Le Mondeの2月2日の社説、「Caricatures libres(自由な風刺画)」は、フランス憲法の第一項を引いています。それには「フランスは単一にして不可分、政教分離にして民主主義で社会的な共和国である。出自、人種または宗教の区別なく、すべての市民が法の前で平等であることを保証するものである。フランスはすべての信仰を尊重する」と書かれています。つまり、社説の筆者によれば「宗教的命令や禁止は共和国法より上に位置するものではない」とのこと。
これは、憲法を引用する前に、偶像崇拝が禁止されているイスラム教にとって預言者が漫画化されたことが冒涜であり問題であるということが述べられており、その点から出発しています。

しかし、この出発点はちょっとズレているようです。
同じくLe Mondeに掲載されたイスラムにおけるイメージの専門家、ジャン=フランソワ・クレマン氏のインタビューによると、偶像制作は禁じられながらもペルシア、インド、トルコなどの神学者はこれをある程度認めていたそうで、ミニチュアが作られていた時期があるそうです。しかし天使たちはちゃんと目や鼻があるのに、ムハマンドの顔だけはのっぺらぼう。そして19世紀末にはエジプトで信仰を伝播するものとして宗教絵が人々の間に流通し始めました。とはいえ、それでもムハマンドの絵だけは描かれていないようです。
それにしても、絵や写真などのイメージにすることがいけないとしたら、ホメイニ師やパレスチナの「殉教者」、ウサマ・ベン・ラディン氏の写真を大量に複製して掲げることは何なのか?ということになります。
更にクレマン氏のインタビューの続きを読むと、風刺画に対する批判の論拠として「間違っていて非論理的」であるとして「コーランは預言者の表象を禁じている、預言者はイスラムの歴史を通して一度も表象化されたことがない、もし預言者を表象化したら偶像にする危険がある」という3つを挙げています。

ところで、デンマークでムハマンドのイラスト入りの本を作ろうとしたということは偶像崇拝の禁止にふれる恐れがなかったのでしょうか?
その点、kiyonobumieさんのエントリー内注釈を読むと、「ブリュイトゲンの本は、1月24日に無事10の挿絵がついて出版された(イラストレーターの名は匿名)。イスラーム教では預言者を偶像化するような図像は一切禁じているとのことだが、彼の本の内容自体はイスラームを批判するものではなく、出版以後、今までのところは、彼に対しても出版社に対しても、図像化に対する抗議や脅迫は寄せられていないという」と書かれており、問題はなかったようです。

では、もしムハマンドを絵にすることがそれほど冒涜ではなかったとしたら、風刺がいけなかったのか?
先のクレマン氏のインタビューによると、中近東や北アフリカ諸国では、ある程度の限界つきではあるが風刺画は一般的といえるようです。

それなら、ムスリムにとってその限度を超えた風刺だったのでは?
引き続きクレマン氏の発言を引用するなら、ほとんどの一般民衆は実際の風刺画を見ていないだろうとのこと。
これは「悪魔の詩」によってホメイニ師から死刑宣告されたサルマン・ラシュディとの関連を質問されての答えの中で述べられています。共通点として、どちらも実際に読んだり見たりされていないだろう、風刺画は見ていたとしても爆弾のターバンを巻いた絵だけだろう、とのこと。

つまり、最初は「冒涜対表現の自由」という構図があったわけですが、こうしてみると、どうもその背後に何かありそうです。
それを感じているのは私だけの妄想ではなさそう。
L'Union紙はアラブ-ムスリム世界における事態の発展を「意表をついたものであり、疑わしくさえある」と見なし、「こうした妄想によって、ムスリムの怒りは一定のアラブの政府にとって都合がよいと思わせられる」と述べています。またL'Est Republicainは「宗教よりも政治的な底意への疑い」を強調。

ところで、先にアップしたエントリー内で参照したル・モンドの記事によると、デンマーク国内では事態は沈静化に向かっていたのに、中近東諸国へ持ち出されておおごとになったように読めます。

また、クレマン氏のインタビューの中で、今回の件とサルマン・ラシュディとのもうひとつの共通点として、「ホメイニ師が1989年2月にラシュディの一件に着手したとき、まず彼にとってヨーロッパ政府を試すこと、それから特に彼を中心にした世界を通してイスラム教徒を動かすことが彼の意図だった」と述べ、政治的な意向によって今回の事態が動かされていることを仄めかしています。
更に「一般的に報道が政府の配下にある国から批判が起こっている」とも言っています。

2月5日にはパリでもムスリムによるデモが行われたそうですが、その主催者は不明。フランス・イスラム評議会副議長のファド・アラウイ氏は、このデモについて何も聞いていない、と共同通信に答えています。
昨年11月に問題となった郊外の暴動では、裏でイスラム系組織が動いているという噂がありましたが、実際はほとんど自発的なものであり、そうした組織の摘発はありませんでした。
しかし、色々な場所でまちまちの時間に起こる行為が自発的であってもおかしくないと思いますが、ひとつのグループとして約1000人が同じ時間に同じ場所に集まるというのは、まとめ役がなくてできることかどうか疑問です。

結局、「イスラム諸国対ヨーロッパ」の構図になってきたようです。
ヨーロッパの横柄さということを先に触れましたが、イスラムのデマゴジーも問題です。

参照
フランス各紙の反応について Yahoo Franceより

「La presse francaise defend sa liberte」(APF)
風刺画にまつわる出来事の経緯 Nouvel Obsより
「Chronologie」
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